相続税と贈与税の関係(消えた5千万円)

相続税と贈与税の関係(消えた5千万円)

チャリー

(チャリーです。よろしく)

 

《虹子》:先生は、気になっていた訴訟事件の判決文が最近手に入ったと喜んでおられましたが、その事件とは、どのような内容ですか。私にも分るでしょうか。

【高塚】:虹子さんもおそらく興味をもたれるのではないかと思います。これは税務署長がした相続税の更正処分の取消請求事件で、事案の内容を簡単に説明しますと、被相続人(以下「A」という。)の亡くなる日の6日前に、A名義の預金口座から

現金5,000万円(以下「本件金員」という。)が引き出されました。本件金員を引き出したのはAから依頼されたAの相続人ですが、その相続人は本件金員を入院中のAに渡したと申立て、相続人らは、本件金員はAが消費しその使途が明である旨主張して、相続税の課税財産として申告していなかったという事例です。

《虹子》:使途が不明ということは、相続開始前の6日の間に、5,000万円という大金がどこかにいった、そして亡くなった日には見当たらなかったということでしょ。ということは、Aが消費したということでしょうか、そうであれば、本件金員は当然に相続開

始の日に相続財産として無いわけだから、課税財産として申告しなっかったとしても無理からぬことではないかと思 われますがいかがですか。

【高塚】:相続開始日にないものを相続財産として課税するということは、使途不明金課税というかいわゆる推計課税のようなものですので、虹子さんの言われるとおりでもあるのですが、これまでの私の経験談をいいますと、このような出金された預金等

の使途が不明であるとして相続税の課税財産として申告されない事例はよくありますし、その後の税務調査によって把握される場合と、把握されない場合があります。問題は後者で、把握できなかったということは事実が分からない状態にあるということ

であり、個人的には、税務署の任意調査(税務署の調査はすべて任意調査)の限界を強く感じるところです。事実は闇の中、つまり、被相続人は亡くなっているにもかかわらず、相続人は「被相続人に聞いてください」と口を閉ざし、事実が確認できな

いという状況に陥ることもあるということです。つまるところ引き出した現金を確認できない限り処分 には至らない。したがって、本件のように審査請求、訴訟となった事例はほとんどない(昭54.6.21裁決:事例集№18-97頁がある。)とういことです。

《虹子》:亡くなった人からは話は聞けないということですかぁ‥。で、判決はなんといっているのですか。

【高塚】:判決は、「銀行から下ろした5,000万円を現金のまま、入院中のAに渡したが、その後、Aが、死亡するまでの間に、相続人らに知られることなく、これをすべて消費したとする相続人の供述は、それ自体、直ちに首肯「うなずく。」し難いもので

ある上、認定事実によれば、‥(病状等のを説明)‥このようなAの病状に照らすとAが本件金員を消費したとは認め難い。また、相続人らは、本件金員の消費先として競輪を指摘するが、証拠によれば、Aは、競輪の決済取引を行っていないことが認

められる。これらの諸点に照らすと、相続人の供述は採用することができず、他にも、相続人らの主張事実を認めるに足る証拠はない。そうすると、AがA個人名義の預金口座から引き出された現金5,000万円を消費したものと認めることはできず、本件金員は、相続財産に属するものと認められる。」といっています。

《虹子》:なるほど。

【高塚】:課税処分が行なわれた場合、その処分に係る立証責任は原則的には処分庁にあります。本件金員のように、相続開始日には使途が不明で存在が確認できない場合、課税庁は相続税の課税要件事実を主張する証拠の提出が乏しい状況に

陥ることとなりますので、本判決のような判断がなれたことは、今後このような事件処理の先例性を有することとなるということです。

《虹子》:つまり、相続開始日に有るべき相続財産を相続人等が課税財産として申告しなかったときに、課税庁はその相続財産を税務調査で把握できなかったとしても、今後は、これまでとは違って申告もれとして課税処分をする場合があるということ
ですね。

【高塚】:そのとうりです。このことは、申告する相続人側にも、主張・立証の参考になる判決ともいえるのです。

《虹子》:先生、判決文をみて気になっているのですが、加算税は過少申告加算税が賦課されています。なぜですか。重加算税の賦課ではないんですか。

【高塚】:虹子さん。よくぞ気付かれました。加算税は国税通則法に規定されています。本件は現金が把握されたものではないので、重加算税の課税要件事実の事実認定はできないと課税庁は判断し、過少申告加算税を賦課したものと思われます。

異論もあろうかと思います。申告した相続人等に仮装、隠ぺいであったという事実認定はできないということですね。そもそも、本判決に異論をお持ちの方もいるのではないか。考え方は千差万別ですから。

《虹子》:勉強になりました。

 

参考:⑴宇都宮地方裁判所●●年(〇〇)第●●号相続税更正処分取消等請求事件(棄却)(確定)
平成25年1月31日判決【税務訴訟資料 第263号ー21】
⑵国税不服審判所の裁決

 

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