成年後見人と今後

成年後見人と今後

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  • はじめに

平成27年から相続税は、基礎控除の引き下げや最高税率が引き上げられたことから相続税の課税対象者は都市部を中心として確実に広がることが注目されていますが、しかし、これからの相続で、まず注目したいキーワードは「高齢化」です。

高齢化は相続発生の増加を意味するばかりでなく、認知症の方の増加をも意味しています。加えて、これからの相続を考えた場合、相続には、ライフスタイルの変化、価値観の多様化がもたらすリスクやトラブルの発生など、相続の形そのものが変化しています。

税理士は、この状況をよく理解し、専門職として納税者の信頼に応えていくための相談・サポート体制が必要であり、その行動に幅広い認識がますます求められのではないかと考えています。

 

  • 成年後見制度

成年後見制度とは、高齢化社会への対応及び知的障害者・精神障害者等の福祉の充実の観点から、自己決定の尊重、残存能力の活用、ノーマライゼーション等の理念と、本人保護の理念との調和を図り、「精神上の障害により判断能力が不十分であるため、法律行為をなすための意思決定が困難な状態である人」を支援する制度です。

精神上の障害等の理由で判断能力が不十分であると、不動産や預貯金等の財産を管理したり、介護などのサービスや施設の入所に関する契約等を締結したり、遺産分割の協議などの行為が困難になる場合があります。また、判断能力に欠けるため、悪徳商法などの被害にあう恐れもあります。成年後見人(保佐人、補助人)には、そのような精神に障害をもった人のために本人を代理して契約等の法律行為を行うことや、本人が行った不利益な法律行為を後から取り消す権限が与えられます。

成年後見制度は、「法定後見制度」と「任意後見制度」から成り立っています。

⑴ 法定後見制度

法定後見とは、精神上の障害により判断能力が不十分な状況にある者に対して、その者を保護対象者として、判断能力に応じて、後見・保佐・補助の3種型を設けて成年後見人、保佐人、補助人を家庭裁判所が選任する制度です。

3つの類型はいずれも、本人、配偶者、4親等内の親族、その他一定の申立権者から裁判所へ、後見・保佐・補助開始の審判の申立てにより選任されます。

⑵ 任意後見制度

任意後見とは、本人自身が将来判断能力の衰えた場合に備え、あらかじめ契約(公正証書)によって後見人を選任しておくという制度です。この契約(公正証書)を任意後見契約といい、その利用形態は移行型、即効型、将来型の3つがあります。

移行型は、契約締結時から受任者に財産管理等の事務を委託し、本人の判断能力の低下後は公的機関の監督を伴う任意後見契約により事務処理を続けてもらう契約形態です。本人の判断能力の低下後においても通常の任意代理の委任契約を継続していたという事例も散見され、トラブルも見られます。

即効型は、軽度の認知症・知的障害・精神障害等で判断能力の不十分な状態にある本人が、契約締結の時点において意思能力を有し、法定後見人による保護よりも任意後見人による保護を選択した場合には、契約締結直後に契約の効力を発生させることを前提とした上で、本人自ら任意後見契約を締結する形態です。

将来型は、十分な判断能力を有する本人が契約締結の時点では受任者に後見事務の委託をせず、将来自己の判断能力が低下した時点で、はじめて任意後見人による保護を受けようとする場合の契約であり、任意後見人契約に関する法律に即した契約形態です。

いずれの場合にも、任意後見契約の効力は裁判所によって任意後見監督人が選任された時から生じる旨の特約を付すことが要件となっています。

この成年後見人等には、資格に法律上の制限はないが、①身上監護に優れている親族後見人、②職種により得意分野の特色を生かせる専門職後見人、③地域のボランティア活動として取り組む市民後見人に分かれ、とりわけ、横浜宣言の4(成年後継人の行動規範)の「⒁正確な会計記録を付け、任命権者たる裁判所あるいは公的機関の要請に応じて速やかにそれを提出する」を踏まえると、税理士は、計算管理能力を有するという得意分野の特色を生かすことができる専門の職業人でありその適性を高く評価されています。

 

  • 成年後見人等と税理士の関係

データから成年後見人等と本人との関係別件数についてみると、最も多い成年後見人等が、「子」で7,594件、続いて「司法書士」7,295件「弁護士」5,870件「社会福祉士」3,332件の順となっており、下位に「行政書士」が864件、「税理士」は81件となっています。

このように専門職による成年後見人等で、税理士の件数は極めて少ない状況となっていますが、司法書士、弁護士、あるいは行政書士(以下「司法書士等」という。)は、本人や一定の親族が裁判所に審判の申立てを行う際に申立ての手続きを業として行っていることもその一因にあるのだと思いますが、司法書士等は地方自治体と共同で無料相談等の積極的な奉仕活動を実施している状況にあり、司法書士等が成年後見人等に選任される環境は少なくとも税理士より整っているのではないかと感じています。その結果が件数に表れているものと思われます。

 

  • 税理士の成年後見への積極的な関与

高齢化社会の到来で、今後、顧問先の相続に関する遺産や事業承継等の相談等においては、税務関係に留まらず認知症等の問題にも税理士は対応して行かざるを得ない状況になるものと考えますが、その場合、顧問先の家族状況や財産状況、事業内容を知り尽くしている税理士にあっては、任意後見制度への取り組みが最も適合しているのではないかと思っています。

しかしながら、成年後見は社会貢献制度であり、高齢者の4人に1人が認知症とその予備軍であると厚生労働省は発表していることからも、その申立件数は確実に増加すると想定され、法定後見制度の重要性を今一度再認識する必要があります。その場合、被成年後見人等の中には収入、財産が乏しい方もおり、裁判所から成年後見人等に対して報酬が付与されない事例も増加するから、税理士による法定成年後見への積極的な関与については、バックアップ体制の整備、受任しやすい環境を構築して成年後見に従事する税理士を独自に支援する制度も必要ではないかと感じています。税理士会には「九州北部税理士会成年後見支援センター」があり、さらなる活動・活躍を応援したい。

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