贈与契約が取消され、あるいは解除された場合の問題点
確定した贈与契約を、その後の事象で取消すことがあります。あるいは解除する場合があります。その場合の贈与財産の権利移転の効果は、原則として遡及的に消滅することになります。(民法121・545①)
そこで、贈与の取消し・解除が行われると贈与行為はなかったものとなりますので、相談者から「申告した事実関係も失われたので課税も修正されるべきであり、更正の請求で税金の還付を受けることができると考えていますが‥。」との問いがあれば、必ずしもそうではないと答えています
いったん課税された贈与税の還付を受けることには、厳しい規制がなされているのです。
国税通則法上の更正の請求について
贈与契約に基づいて申告された確定済みの課税関係は、例えば後に合意解除があったからといって当初申告の内容に誤りがあったわけではないので更正の請求はできるとはいっていないのです。更正の請求が認められるのは、その事由として国税通則法23条2項に「判決や判決と同一の効力を有する調停や和解によって贈与の効力が取り消され、解除されること」の要件が付されています。
この場合、いわゆる馴合訴訟による判決や和解では、更正の請求は認められず否定されます。特に親族間においては、結論を自由に導き出すことができるとして否定される可能性は高いものと考えられます。
(通達)があります。
『国税庁ホームページ』から「税について調べる」→「税法、解釈等」→「相続税関係」→「個別通達目次」より
〇名義変更等が行われた後にその取消し等があった場合の贈与税の取扱いについて「名義変更通達」
〇「名義変更等が行われた後にその取消し等があった場合の贈与税の取扱いについて」通達の運用について通達
客観的事実関係の要求
上記の通達では、法定取消権、法定解除権の行使が行われた場合、
「財産の名義を贈与者の名義に変更したことその他により確認された場合に限り、贈与がなかったものとして取り扱う。」
としており、取消しや解除の意思表示だけでなく名義変更などの客観的な事実関係を要求しています。
そして、取消し・解除が確認される場合を、次のような条件で限定しています。
● 詐欺・脅迫については、公訴の提起や社会上の風評等から詐欺・脅迫の事実が認められること
● 夫婦間の契約取消権(民法754)については、夫婦の経済力その他の状況から取消しが贈与税の回避のみを目的として行われるものでないこと
● 未成年者の取消権(民法5②)や履行遅滞による解除権(民法541)のような法定取消権や解除権については、その行為、行為者、事実関係の状況等からみて取消権・解除権の行使が相当と認められること
合意解除
合意解除の場合は、例外としては贈与税の申告期限までに解除がなされていること等を求めており、更正の請求は原則として認めない、認める余地はないという立場をとっています。いったん確定した税金は還付されないことになりますので、贈与契約の締結に当たっては、この取扱いを理解しておくことも求められるところです。
贈与財産の返還と課税
このように、贈与の取消し・解除が否定されるとすれば、贈与した財産の返還は新たな贈与とみて贈与税の課税対象になるのではないかとの疑問をもたれることも考えられます。これについては、贈与の取消し・解除の課税上の関係と私法上の効力のことは別問題であるから、取消し・解除に伴う財産の移転を「新たな贈与」とみることの必然性はありませんので、当然にこれを贈与として取り扱わないこととしています。
理解度クイズ
〇 次のうち最も適切なものはどれか。
① Aさんが叔父から無償でもらった不動産は、脅迫された贈与であるとして叔父から返還を求められ、弁護士からは訴訟しても不利であるとの指導があったことから、承諾はできないが叔父に不動産を返還した。この場合、Aさんは、合意解除したものではないので更正の請求をして税金の還付を受けることは可能である。
② Bさんは、叔父から贈与でもらった不動産を、この度返還することとした。ただし、返還手続き前に叔父は亡くなったので、叔父の相続人に返還した。返還は贈与として取り扱わないこととなっているので、この場合も贈与税は課税されない。
➂ Cさんが不動産を子に贈与したが、受贈者の子に資力が乏しいため、Cさんがその納税資金を子に援助した。贈与税の支払いのための援助は「新たな贈与」とみることはない。
答えは ②